きみに触れられない
しばらくの沈黙の後、ハルは穏やかな声で言った。


「…だいぶ、落ち着いた?」

「…うん」


それならよかったと笑うハルを見て、少し心が落ち着いた。


「もうそろそろ授業が始まるよ」

「え?」


驚いて声を出したところで、チャイムが鳴り響いた。

授業開始の5分前を告げるチャイムだ。


「行かなきゃ」


泣きはらした顔で午後の授業に出なくちゃならないのかと思うとちょっと落ち込む。


立ち上がって、屋上の扉に手をかけた。


その時、後ろから声がした。


「またここに来てよ」


ハルは私の方を見て手を振る。


私は頷いてみせた。


ハルは笑った。


それから私は階段をひたすらに降りた。



__最後に見た、ハルの笑顔。


くしゃりと笑う、ハルの笑顔。


ハルの笑顔は、やっぱり好きだと思った。


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