それを愛と呼ぶのなら

1日目の遁走

手にしたのは、修学旅行の時に買ったキャリーケースと、お気に入りの黒いショルダーバッグ。

たったそれだけの荷物と覚悟を持って、私は家を飛び出した。




東京駅。ケータイで連絡を取り合い、丸の内南口の改札前で漸く彼の姿を前方に捉える。


「真尋!」


人混みを縫って柱に凭れた彼の前に辿り着くと、彼もまた大きなキャリーケースを従えていた。


「ごめんね、お待たせ」

「……全然」


会うのは、あの夜以来。少しだけ緊張してしまっていることは、真尋の姿を見つけた瞬間に自覚した。

さすが都築真尋と言うべきか、行き交う女の子の殆どが一度は彼に視線を向ける程度に、真尋は人の目を引くらしい。


「何時の新幹線?」

「9時半」

「ならもう向かってもいい時間ね」

「あぁ。行くか」


コンコースを並んで歩き、駅の1番上にある新幹線乗り場へと向かう。

観光客も多いこんな場所では、大きなキャリーケースを持っていたって、何の違和感もない。


「何時に向こうに着くの?」

「12時過ぎだったと思う」

「結構すぐなんだね」
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