それを愛と呼ぶのなら

序章

雨が降る夜のことだった。



急に訪れた暑さに体調を崩し、何も食べないでいた私のお腹は、とうとう限界を迎えた。

自室の扉を開くとそこには真っ暗闇が広がっていて、物音を立てないようにと無意識のうちに自分の気配を消していた。


階段を降りてすぐ、廊下に一筋の光が漏れていることに気付く。

生まれてから18年間も同じ家に住んでいれば、それがリビングからの光がだということは一瞬でわかる。

だけど、その中から聞こえてきた、18年間聞き続けたはずの声は、一度として耳にしたことがない声だった。


「……なの?何よ、早く言ってくれればよかったのに」


その声を聞いた瞬間、どくん、と心臓が嫌な波を打つ。

扉の向こうから聞こえてくるのは、“母親”ではなく、“女”のお母さんの声。


「旦那?……今日は遅いみたいよ。いつものことだけど」
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