それを愛と呼ぶのなら
小さく波打つ湯船に浸かりながら、瞼をそっと落とす。


今日は疲れた。

目が覚めて、体を起こして。お母さんのいないリビングで、いつの間にか帰ってきていたお父さんと一言交わし、送り出した朝。

家を出て行く黒いスーツの背中にそっと問いかけてみたの。

「お父さんも何かを隠してる?」「他に女がいて、夜を過ごして、笑い合ったりしてるの?」って。

私が孤独な時間を過ごす間、ふたりは満たされていたのかもしれない。

仮面だらけの家族を記憶の隅に追いやって、それぞれに大切な人と幸せな時間を過ごすことによって。


ひとりになった部屋で、私の頬を伝った雫。

悔しいのか悲しいのか切ないのか──あるいは、楽しいのか。

ぐちゃぐちゃになった感情を何ひとつ理解出来ないまま、それでも私は涙を拭った。


やっと楽になれる。鉄格子に囲まれた世界から、ようやく解放されるのよ。

ひとりじゃない。真尋がいる。大丈夫、怖くなんかないわ。
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