僕が君の愛

 加織は、自身の声が震えていることを自覚する。肇の意図が読めない。唇は弧を描き、頬も緩んでいるのだが。眸は加織から逸れることなく、力を、熱を持っていた。緊張のせいなのか、肇に見つめられているからなのか。加織は、自身の頬が熱を帯びていることを自覚する。
 一瞬。肇の視線が犬養へ流れた。犬養は、葉巻を片手に、全くの動きが見られない。写真か絵の様にかたまり、肇と加織の様子を見つめている。その姿を視界に納め、肇は小さく口角を上げた。満足気に。
 肇の手が。加織の肩に置かれていた手が、後頭部から髪を一掴み撫で、耳朶を掠めて頬へと移る。肇の掌が移動すると共に、与えられる熱も加織の中で広がってゆく。

「全く。私に会いたかったのかい?家に帰れば、毎日のようにゆっくり可愛がってあげているつもりだけれども。私の自惚れだったのか……。おまけに。おかしな遊びまで覚えてしまって。火遊びは程ほどにしなくては駄目だ。それとも。私に妬いて欲しいのかな?」
「ちょっとまって……」
「何にしても、相談もなしに店に来るのは良くないだろう?私の仕事場とは言え、私たちの子供に、このお店の空気は良くないと話し合ったはずだ。もう、ひとりの身体ではないのだから、加織」

「……子供?」

 犬養の口から言葉が零れる。
 ――子供――
 本人である、加織ですら全く身に覚えなどない。首を振り、否定しようと試みるが。肇の熱い掌に、頤を掴まれ叶うことはなかった。

「これで、我慢するんだ」

 気が付けば。加織の唇は肇のそれで塞がれていた。触れ合うだけの優しいものなどではない。最初から、加織を食べつくすのではないかと思われるほどの濃厚な口付け。大きく開かれた肇の唇が、加織の全てを覆い隠す。歯の隙間から差し込まれた肇の舌。掌同様に、ひどく熱を帯びているそれ。加織の口腔内をかき回し、愛撫する。響き始めるのは、加織の僅かにもれる吐息と水音。肇の両の手に頬を包まれ、加織は思う。
 何故――と。

 
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