ベタベタに甘やかされるから何事かと思ったら、罠でした。



〝ひなちゃん〟



低く柔らかな声で愛しそうに名前を呼んでくるから、おっかしいなぁーとは思っていたんです。

だってどう考えたって私には、特別優しくされる理由がない。

顔も平凡だし。自分で言うのもなんですが、性格だって特別良いとは思わないし。



引っ越した先の管理人さんがイケメンで、私のことを好きになる。……いやいやあり得ないでしょう。わかってます。あり得ないんですそんな、出来すぎた話は。

それなのに身に余るほど優しくされて。大事にされて。甘やかされて。

単純な私は一瞬嬉しくなっちゃうけど、違和感はぬぐえない。分不相応な愛され方には、いつも「どうして?」という疑問がつきまとう。



〝ひなちゃん、おいで〟



優しく包んでくれそうな笑顔で、腕の中に誘われても。

根気強く待たれたら結局、自分から手を伸ばしちゃうけどやっぱり「なんで?」って思ってしまう。

どうしてそう、甘やかすんですか。






――「これは罠だ」と私が気付くのに、そう時間はかかりません。







話は至ってシンプルです。

顔も平凡。性格も普通な私に唯一与えられた、キラリと光るハイスペック。



私、

瀬尾 日奈子(せお ひなこ)は。



自分でおっかなびっくりの肩書ですが、
世に言うところの社長令嬢です。




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