花火の向こう側(連載中)
タイトル未編集
夢だったんじゃないかと思う
全部、長い夢だったんじゃないかと。
始めからあの子もいなくて、私もいなくて。
全部全部、あの夏に見上げた花火のような、
儚くも美しい夢だったんじゃないかと――――







初めて出逢った春の終わり。
あの、夏の始まる頃の空気、どうしようもない高揚感。
高くなり始めた空と、膨らみ始める入道雲。







あの夏は例年に比べても特別暑い夏で、
夜をくぐり抜けて夢中で恋をしていた私たちはいつも海沿いの道や噴水のそばを選んで涼みながら歩いていた。







――――見下ろすと、夜の海。
高いフェンスにそっと頬を乗せると、ほてった体に風が少しだけ冷たい。
夜の海風を感じたくて、私は静かに目を閉じる。
頬に、髪に降り注ぐ風はやわらかく、吸い込む息も、ゆるく優しい。
夏だなぁ、と強く思う。目を閉じると余計に。







そんな私を後ろから包み込んで、くしゃくしゃに髪をなでたり、繋いだ手を無造作に振り回してみたり。
あの子はいつだって笑っていて、いつだって私を一瞬で幸せにしてくれた。







「暑いね」と言って
「離れる?」と聞かれて
「死ぬほど熱くして」と抱きしめる。







二人でかいた汗も、体温の境界線も曖昧になるくらい抱き合って。
キスをして。
愛してると囁きあって。







そんな二人を包み込んでいた降るような星空も、虫の声も、静かな波の音も、遠くから聞こえてきたサイレンも。
まっすぐ私を見つめてくるあの子の瞳も、声も、まばたきも、
全部全部、私が見ていただけの夢だったんじゃないかと――――







道はひらけてた。
選ぶことも出来た。
一緒の未来、描いた夢、指切りと、たくさんの約束。
交わしたキスも、繋いだ手も、
ずっとそばにあるはずだったやわらかい黒髪の、
短い前髪からのぞく、まっすぐな瞳も。
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