花京院家の愛玩人形


紫信はシッカリしてるンです。

ド天然で浮世離れしているのは事実ですが。

それでも、それなりにシッカリしてるンです。

だから、買い物は断念しようと決めたンです。
冷蔵庫の中にある食材で、献立を考え直したンです。

テレビの天気予報でも、後少しでこの辺りが暴風圏内に入るって言ってましたしね。

だけど…
図書館の待ち合わせはどうしよう?

要は、真っ直ぐ家に帰ってくる?
それなら大人しく待っていなくちゃ。

それとも要は、図書館に寄る?
それなら行かなきゃ申し訳ない。

しかも要は、来るか来ないかわからない自分を図書館で待つ羽目になったり…


(そんなの、申し訳なさすぎて合わせる顔がないわ)


花京院家のリビングで。

キリリとした表情でコクンと頷いた紫信は、抱いていたクッションをソファーに置いて決然と立ち上がった。

強風で折れる可能性のある傘は避け、梅雨の時期に要が買ってくれた、紫陽花色のフード付きレインコートを身に纏って。

要用の黒いレインコートとタオルを、濡らさないようビニール製の袋に入れて。

さらにソレを両手が自由になるナップザックに入れ、背負って。

万が一要と入れ違いになってしまった時のために、すぐに戻るから捜さないよう、という内容の丁寧な書き置きをテーブルに残して。

地下に下りて気合の入った『いってきます』を言い、玄関でレインコートと同色のレインブーツを履けば…

出撃準備完了。

ほら、シッカリしてるでショ?

学校の災害対策事情と、電話という文明の利器を、すっかり失念しているコトを除けば。

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