花京院家の愛玩人形


足取りが重い。

なのに今日も来てしまった。

窓から図書館が見下ろせる、この場所に。

シンと静まり返った放課後の校舎。

大きな木製のケースを抱えた小学校教師・コーヅキは、図工室の扉の前でボンヤリと立ち尽くしていた。

メガネの奥の彼の目は虚ろ。

その下にできたクマも濃くなる一方で、先輩教師に通院を勧められるレベルになってしまった。

ナニ?
死相が出てるって?

ソーカモネー

少なくともコーヅキ本人は、自らの死期は近いと確信している。

何も出来なかった。
もう何も出来ない。

後は恐怖の訪れを待つだけ。

せめて、美しく清らかなあの人の絵を、完成させるだけの時間が残っていればいいのだけれど…

引き手に指をかけ。
扉をスライドさせて。

ゴトっ カシャンカシャン…

コーヅキは長年使い込んだケースを取り落とし、中の画材を部屋の入口付近にブチまけた。

あ、キタ?
死期、とうとうキタ?

って、違うから。

キタのはキタけど、別のがキター

学校あるあるの重い緑色のカーテンを少しだけ開け、午後の暖かな光に照らされてその人は立っていた。

掛けてあった白い布を取り払ったキャンバスに、視線を落として立っていた。

コーヅキが、眺めて描いて恋をして、なのに命を奪おうとした美しい人が、たった一人で無防備に立っていた。

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