花京院家の愛玩人形

「無理だから」


紫乃を抱きしめたまま、迷う素振りも見せず、いつも通りの口調でボソボソと要が言う。


「こんなトコに…
ってか、駆除対象の有害クソゲスDV中年の元に、君を残していけるワケないでショ。
それにもう…
物理的にも無理なカンジだから」


「ですから、わたくしはよいのですと何度も…

物理的にって、どういうコトですの?」


「物理的に、動けないってコトですよ?」


「なんですって?」


なんという緊張感の欠如。
なんという通常運転。

もっと切羽詰まってもよさそうな会話の内容とは裏腹に、これっぽっちも切羽詰まっていない様子の要を見つめ、紫乃は眉を顰めた。

動けないとはナニゴトか。

自分とは違い、彼の両足は揃っている。

信太郎が言っていた『制裁』は、まだ彼には加えられていない。

なのに…


「花京院様、いったいどうして」


「その訳は、私が話してやろう」


紫乃の言葉に被せるように答えたのは、要ではなく信太郎だった。

やはりくぐもった声で。
やはり彼らの前に姿を現さないまま。

いや…

現れる。

木の軋む音と共に、閉じていた部屋のドアがゆっくりと開いて…

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