花京院家の愛玩人形

なーんて復活させた紫乃でした が!

彼女は誰だ?

今、目の前で、黒い沼に首まで飲み込まれながらも暴れ続けている女は誰だ?

紫乃なら、彼女の絶対的な存在となった私に逆らうことはなかっただろう。

紫乃なら、強引に沼に飛び込んだ泥棒男を拒むこともなかっただろう。

紫乃には、誰かを守ろうと、絶望的な運命に立ち向かう強さなんて…

ふと、

『もう少し落ち着いたら子供が欲しいね』

なんて語り合った、幸せだった短い逃亡生活が脳裏をよぎる。

『お互いの名前から一文字ずつ取って、子供に名付けようね』

なんて語り合った、今思えばままごとのように幼く拙かった二人の生活が脳裏をよぎる。

私は、優しくたおやかな、紫乃そっくりの娘がいいと言った。

紫乃は、多くは望まないから、ただ、心の強い子になってほしいと言った。

紫乃は知っていたのだ。

簡単に流されてしまう、浮き草のような自分の弱さを。

だから生まれてくる子供には、自分が犯すであろう過ちを繰り返してほしくないと…

彼女は誰だ?

紫乃と同じ優しさとたおやかさを持つ彼女は?
紫乃にはなかった心の強さを持つ彼女は?

彼女は…


「紫信(シノブ)…」


私は呟いた。

そう。

彼女こそ、そこには確かに愛が在ると信じた日々に生まれた、私と紫乃の夢の現身。

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