やさしいだけじゃない。
許嫁でいられて、幸せだった。


きっと、誰がどう見ても、幸せそのものだった。


王城で暮らしていたころの私は好きの違いに気づかなかった。


小人の家に来て、ようやく気づいた。


王子様が好きなわけじゃなかったこと。


王子様は憧れの対象だったこと。


気づけたのは、あの人に出会えたから。




「翠くん」




翠くんを、好きになったから。




「白雪姫!」


目を開けると、まっさきに翠くんの安心した顔が視界に映る。


「翠くん」


身体を起こすと、ぎゅっと抱き寄せられた。


苦しいくらい強く抱きしめられる。


「え、あの、翠くん!?」


状況が呑み込めないままでいると、翠くんは掠れた声で「良かった」と言った。


「目を覚まして、良かった」


「翠くん…」


きっと、すごく、すごく、心配してくれていたんだって、伝わってくる。


「ありがと、心配してくれて。助けてくれて」


翠くんは私を放すと、「あのおばあさん、お妃さまだった」と言った。


「え…」


お妃さま、それは。


「王妃さま…?」


私の命を狙う、継母。


翠くんは頷いた。


「白雪姫が毒で倒れて、僕が焦ってると高笑いしたままお妃さまの姿に戻っていったよ」


私は自分を抱きしめた。


「解毒の仕方を聞き出そうとしたんだけど、まあ、教えてくれないし。

焦ったよ。どうしたらいいんだろうって。

白雪姫を死なせたくないのに」


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