My little stories
「ふぇっくしょん!!あーこの時期は花粉が飛んで、小説に集中できないんだよな。少し休む事にしよう。そうだ、それがいい。」

男は、原稿用紙が沢山積まれた机から顔をあげて、背伸びをした。

「またそんな事を言ってるんですか?貴方は夏になったら暑いから集中出来ないと、秋は紅葉の美しさに気を取られると、冬は寒いからと、言い訳を付けては机から離れる。いつまでたってもそんなのじゃ有名にはなれませんよ、昭彦さん。」

買い物から帰ってきた所であろう助手は、靴を脱ぎながら昭彦と呼ばれた男に説教をした。

「昭彦さん、じゃなくて先生と呼びたまえ、虎太郎君。」

昭彦は、不満そうに頬を膨らませた。

「先生って、貴方はろくに小説も書かない癖に。何が『先生と呼びたまえ』ですか。そういうのは、きちんと書いてから言うものです。世の評価がどうとか、そういうのではなく、何か一つ完結させたらどうですか。」

虎太郎は、昭彦の額を人差し指でつん、と突きながらそう言った。

「君は本当にお説教が好きだなぁ。もう少し私の事を褒めてくれてもいいじゃないか...」

昭彦は溜息を吐いて、机に突っ伏した。

「別に、説教をしてる訳では無いんですよ。僕も貴方の小説を楽しみにしている内の1人だから言っている訳で...本当はとても素敵な文章を書けるのに、貴方って人はいつもサボってばかりで、勿体無いんですよ...」

虎太郎は少し照れ臭そうにそっぽを向きながら言った。

「虎太郎君...」

昭彦は目を輝かせながら虎太郎を見つめた。

「僕が褒めたからといって、サボっていい訳ではありませんよ。今日こそは何か書いてもらいますからね。」

そう言うと、虎太郎は買い物した品を片付けてくる為に何処かへと行ってしまった。
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