俺様上司と身代わり恋愛!?


「どこにあったんですか?」
「二冊はここに入ってたけど、一冊はその後ろの段ボールに入ってた。ここ、後で整理しないとダメだな」

「今日、これからも仕事あまりないようだったらできるだけしておきます。他に手が空いてそうな人がいたら、一緒にお願いしてみます」

「そうだな」と言いながら、課長が段ボールを棚に戻す。
そして、床に下ろしていたふた箱を棚に戻し終えてから、じっと私を見て……その視線が少し下がる。

何を見ているんだろうと課長の視線を追って、胸の前で両手で持っている志田さんの名刺に気付く。

「誰にでもいい顔してんの見るとイライラするとか、少し分かった気がする」
「……え?」

ぼそりとこぼされた言葉に、一瞬大きく頭を揺さぶられた気がしながらもゆっくりと視線を上げると。

課長は私と目を合わせた途端、ハッとした表情を浮かべ口元を片手で覆った。
そしてすぐに「悪い」と謝罪する。

誰にでもいい顔してるの見るとイライラするって……それって、私の事だろうか。

課長は、私を見て、イライラしたって事なんだろうか。

そんな不安に胸は大きく嫌な音を立て身体中に鳴り響き、すぐに声が出せなかった。
課長は何も言えない私を見て、申し訳なさそうに微笑んだあと、頭をポンと撫でる。

「悪かった。悪趣味な冗談だ。忘れろ」

細められた瞳がスッと私から離れ、課長が通りすぎる。
課長の足音がコツコツと離れて行き部屋から出て行ったのを耳で聞いても、その場から動けなかった。

課長は冗談だって言った。
悪かったって謝ってもくれたし、忘れていいとも言った。

けれど、告げられた言葉は頭の中で大きさを変えずに、何度も何度も木霊したまま消えようとはしなかった。

志田さんにもらった名刺が指から抜け落ち、ひらひらと床に落ちても、しばらくそれを拾おうと思えなかった。




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