大人になるのも悪くない


「ありがとう。嬉しい、んだけどさ……」


無邪気に微笑んだあと、急に表情を曇らせて、彼が言いよどむ。


「けど……何?」

「……その前にしばらく怒られると思うから、待ってて?」


さっきまで強気だった彼が、急にしゅんとした子犬のようになってしまったのがおかしくて、私はクスクスと笑った。

周囲に高い壁を張り巡らせて、自分の気持ちを押し隠すことが当たり前になっていた自分とは対照的に、素直で飾らない彼が愛おしい。


それから路地を出て、お店までの短い道のりを彼と腕を組んで歩きながら、私は思う。

これからもきっと、私は日曜の夜にバーを訪れる。

彼との“至福”の逢瀬に、店が混雑していたのでは仕方ないもの。


生まれてから三十回目の誕生日。

大人になるのも悪くないと思えた今日に、乾杯。






END


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