追いかけっこが、終わるまで。
ゆっくり歩いて20分。

休日の散歩にちょうどいい距離のこのカフェには、週末ひとりでのんびりしたい時に来る。

「こんにちは」

入り口で挨拶すると、テラスですね、とウエイトレスのお姉さんから声がかかる。

並んで二人座れる隅の席は、背の高さほどの生垣で囲まれている。

いつも何食べてんのと聞かれて、クロックムッシュかな、と答える。じゃそれで、あとコーヒーお願いします。メニューも見ずにオーダーする。

「リサは?」

私も同じでお願いします。そう言うと、お姉さんはにっこり頷いて店内に戻っていく。

今日は薄曇りだけど日が差してきて、晴れが似合う人だなと考えながらのんびりとランチをした。



弓道をまだ続けていると教えてくれた。大学でもやっていたし、今も時々弓道場に行くそうだ。

もう大会も出てないし、なまってるけどね、と謙遜された。

ずっと続けていることなんて私にはないから、それだけでもすごい。本当にそう思う。

「語学は?ずっとやってるんじゃないの?」

「私のは、育った環境で」

「ベースは環境があってもさ、続けるとか工夫するとか、そういうのは自分だろ」



ああ、この人って、恵まれた自分を許せる人なんだ。

そう思った。



帰国子女という育ち、男子に声をかけられがちな見た目。

私は自分に与えられたものを、高校ではうまく扱えなかった。

今の仕事も、結局恵まれた立場だからこそたまたまたどり着いたようなものだと自覚している。

でも、努力はそれなりにしてるし、苦労知らずで羨ましいという妬みを受けると腹も立つ。



そういう自分を扱いかねている私は、今もこの人に憧れている。



憧れだけで済めばよかったのに、だけどもう、それだけではいられない気持ちがあり。

嬉しいような、困ったような、複雑な気持ちで空を仰ぐ。



まだ眠たそうだと、光輝くんが帰り道も部屋の前まで送ってくれた。キスもしないで帰っていく。



なんだかなあ。

逃げそうにもないってわかったらもう、淡白なのか。

ほっとしたような腑に落ちないような、モヤモヤした気持ちを抱えながら眠った。

午後遅くから、次の朝まで、夢も見ないで。
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