追いかけっこが、終わるまで。
先輩と私が通った高校は、東京の郊外にあり。広さを生かして色々な運動部があった。

広い弓道場もあったから、弓道部も男女ともに人気の部活だった。

私の年は男女それぞれ20人近く入部したから、特にそう感じるのかも。最後までいたのは半分ちょっと。意外と厳しい部だったから。



3年生の長谷川先輩は、とにかく自由な人で、気分にもむらがある人だった。

一人で黙々と朝練をしているかと思えば、急に部活をサボって部長に怒られたりする。みんなの和を乱しているように見えるのに、むしろ彼の周りに人が集まっていた。

そんな先輩の毎日を、ファンクラブの私たちは熱心に追いかけていた。どこにいても自然と目立つくせに注目を浴びるのが嫌いな先輩に気づかれないように、こっそりと。




「今日すっごく機嫌悪いってね」

「朝練でこっわい顔してたよね」

「でもさー、部長がチョコあげたらニコッとしてたよ。一瞬ね」

「うそ、見たかった!ずるい!」

「部長ずるい!部長になりたいー」

「それでね、チョコぐらいで釣れると思うなよとか言ってた」

「釣られてるくせにね!やっぱかわいいね」

「だよねー。私もチョコあげたい」

この後私たちは、3年生たちの前でわざわざキットカットファミリーパックを持ち出し、「先輩たちも食べますか~?」と声をかけて、先輩チョコ餌付け作戦を敢行したのだった。

ほんとに楽しかったなぁ。



全国大会出場を逃した3年生が引退した7月末まで、私たちの毎日はほんとにお祭り騒ぎだった。



引退後も先輩情報は色々回ってきたけれど、やはり受験生は忙しいようで教室からなかなか出て来なくなり。あまり姿を見かけることもないままに月日が過ぎた。

それでも、卒業式で「さくら」を歌ったとき、光り輝く先輩がいなくなってしまうと泣いていた子もいた。



思い出してみると、あの頃既に本気で恋愛していた同級生もたくさんいたわけで。

あまりに幼稚で無邪気な恋心で大騒ぎしていた私たちは、本当に子どもだったのだけど。

私にとっては、青春の1コマだなぁと今もしみじみ思う。



たくさんの行事があったし、部活も3年まで続けた。

それでも高校生活と言えば、日に日に暑くなる学校で、弓も持たせてもらえずに走り回ってきゃあきゃあ言っていた1年のときが浮かんでくる。
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