廃想集 『カワセミ啼話』

* 掌の傷



眺めていた。

飽きるほど、
穴が開けばいいと思いながら
眺め続けていた。


いったい、いつからだろう。
掌に傷がついたのは。

いったい、いつからだろう。
こうやって眺めているのは。





すると、誰かが
ふとそれに気付いて
こう云った。


『掌に傷があるのは、何かを守った証拠さ。あったんだろ?守りたい何かが』





ああ、そうなのか。
そうだったのか。

何かを守った証。
守りたかった何か。





はて。



俺はいったい、
何を守り、何を守りたかったのか。


今となっては
判りもしない。




ただ……、
掌の傷だけが知っているようで。


今日もまた、
眺め続けているだけだ。


いつか、この傷も
守りたかった何かのように消えてなくなるのだろうかと。
忘れてしまうのだろうかと。




今日もまた、
眺め続けている。






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