未熟女でも大人になっていいですか?
「はぁ……疲れたぁ……」


呼吸の乱れきっている私のことは知らん顔で、高島はどんどん奧へと向かって歩き出す。


(…もうっ、少しくらい待ってくれてもいいのに)


不平を口にしてはいけないと休んでいる間に言われた。

だから、言いたくても口にもできない。



「望さん、待って」


脹ら脛の張っている足を何とか前に出して進む。

前方を歩いていた男は、その声に反するように走り出した。


「えっ!?ちょっと、望さん!?」


本殿は左手にあるのに、それには目も暮れずに駆け抜ける。




「棟梁!」


人混みに紛れて見えにくくなった背中を追いながら聞こえてきたのは、紛れもない高島自身の声。



(棟梁……?)


ようやく立ち止まったかと思うと背中がスッと伸び、大きく手を振った。


「俺です!高島!」


どうやら手を振る相手は工事中のシート内にいるようだ。



「おー!高島かー!」


よく通る男性の声が響き渡った。

上から聞こえてくる声に周囲の参拝者が見上げる。

それと同じように、防塵シートで囲まれた古い社殿内を見渡した。



声の主は、解体の進んだ社殿の梁の上に立っていた。

白いタオルをハチマキのように結び、その上から浅くエンジ色のキャップを被っている。



「お前もう着いたのかー、早かったなー」


声を上げてはいるが、手は休もうとしない。

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