未熟女でも大人になっていいですか?
隣にいる女が声をかけてきた。

いつもなら早々と顔を上げて、そいつの項垂れた横顔を眺めるのが癖だからだろう。


「カツラの両親に報告してたんだよ。結婚申し込んだから宜しく…って」


ハッとした顔が赤くなる。

ぎゅっと握った指先に、ピンクの小石が付いた指輪が光っている。



……手を出したい。

その手を握って、強く抱き締めてしまいたい。



(ダメだ、ダメだ。朝っぱらかそんなことしたらカツラが怖がる……)



「メシ作ってくれよ。腹減って仕方ねぇ」


起き抜けで空いてる訳でもないけど、言う言葉が他に思いつかない。


「はいはい。直ぐに始めます」


「パンでもいい?」と聞かれ、「何でもいい」と答えた。


カツラはさっと立ち上がり、キッチンへと向かいだす。

後ろ姿に憂はない。

昨夜あんな形で終わったことを、根には持っていないみたいだ。



(良かった。これなら今夜誘ってもオッケーかも……)


ホッとしながら表に出た。


5月の空は青さを増し、爽やかな風が吹いてくる。

始まったばかりの新しい生活に、大きく息を吸い込んだ。



(今夜こそ決めるぞ!)


新たな決意を胸に後ろを振り返る。

淡いパステル調に塗った壁を眺めながら、(この色と同じ色でカツラの肌を染めるんだ…)と誓ったーーーー。



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