ベタ恋!〜恋の王道、ご教授願います〜
桐島課長から約束をしてくれるなんて。

あんなにやさしい笑顔は仕事中では絶対に見せてくれない。

わたしだけに見せてくれる、特別な笑顔なのかな。

桐島課長のあんな仕草を目の前でみたら誰だってときめくはずだろう。

現にわたしが今そうだから。

これって恋に値するんだろうか。

合コンで知り合ってなんとなく好きになったときとは違う、曖昧な感情ではなく、恋をしてみたい自発的な感情へと向かっている。

ふっと、勝手に好きになったばっかりに塩系男子の困らせた顔を思い出し、我を忘れていることに気づく。

正々堂々と恋なんかできる人間じゃなかった。

だって、わたしから恋をしたら、変な顔をされる地味な女だから。

ふう、とため息をもらし、わたしも非常階段の扉からビルの中へと戻り、気持ちを仕事モードに切り替えて総務課へと戻った。

桐島課長は席に背筋をピンとのばして座り、資料を見ながらパソコンへ入力をしていた。

気になって気になって集中できない。

お昼の休憩が終わり、午後に入ってからしばらくして午前のやりかけの仕事をしようとしていたときだった。

「星野くん、ちょっといいかな?」

「は、はい」

一瞬声が裏返ってしまったけど、気にせず桐島課長の席へと向かう。

「この資料、少し直しておいたから目を通しておいてくれないか?」

「わ、わかりました」

きちんと言葉を返そうとしても、ついつい口に出るのはぎこちなくかちかちに固まった言い方だった。

資料をもらい、やっぱりぎこちない歩きかたで自分の席に座る。

確認すると、資料には訂正箇所を綴った紙が添付されている。

その紙には桐島課長のきっちりとはっきりとしたきれいな文字で書かれていた。
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