イジワル上司に焦らされてます
 


企画書に書いた堅苦しい文章を、私なりの言葉にして辰野さんへと伝えた。

真っ直ぐに、前を見て。堂々と、自分の作ったものをプレゼンする。



「いかがでしょうか?」

「……うん。良いと思います。" ひととき " という言葉自体、馴染みのあるものだし、何より温かい印象を受ける。けれど、それを、かな表記ではなく少し工夫をされたことでオリジナリティもある」

「ありがとうございます」

「こんなことを言うと失礼ですが、前回提示して頂いたものより何倍も良いと思います。これならすぐに、上にも通せそうです。日下部さん、本当にありがとうございました」



満足気な笑みを浮かべ、企画書の上に手の平を置いた辰野さんを前に、私も思わず笑みを零した。

約束通り、今日の朝一番に、この企画書を見せた時の不破さんの言葉と顔が脳裏に過ぎる。


『良いな。これなら、先方も喜んでくれる』


尊敬する上司に太鼓判を押してもらい、ほんの少しの不安も吹き飛ばしてからここに来た。

自分でも良いものができたとは思うけど、やっぱり不安は最後まで拭えないものだから。

不破さんからの言葉があったからこそ、辰野さんに堂々と企画書を提示できたのかもしれない。

だって、今まで不破さんに褒められたものがクライアントに通らなかったことはない。

間違いなく、不破さんから貰った言葉が、自信へと繋がったんだ。

 
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