イジワル上司に焦らされてます
 


「な! 日下部ちゃん、すごい美人だろ!?」

「不破くんは会うの今日が初めてだっけ。日下部さんが学生の頃、面接でウチの会社に来た時は不破くん出張でいなかったから」



新入社員が今日から入るということは、遡ること三ヶ月前に社長から直々に知らされていた。

大手企業であれば毎年のように入ってくる新入社員も、精鋭十数名から成るデザインオフィスではごく稀な大イベントだ。

その貴重な新入社員を指導するよう任されたのが、今の時点で一番下っ端の自分だった。

つまり彼女は入社四年目の自分に、初めてできた部下だということ。



「あの……不破、さん。今日から、よろしくお願いします……!」

「あー、はい。よろしく。とりあえず、俺の隣がお前のデスクだから」

「はいっ! ありがとうございます!」

「……で、とりあえずコレやっといて。こっちの広告を、新しいサイズにリサイズ。もしもわからないことがあれば、その都度俺に聞くように」



両手いっぱいに抱えた緊張と、キラキラと期待を滲ませ輝く瞳。

自分も数年前は、こんな顔をしていたのだろうかと考えてから、思い出しても意味のないことだと頭を振った。

まだ慣れない自身のデスクを前に、どこか嬉しそうな表情を浮かべている彼女。

今は閑散としているデスクの上も、数週間と経たない内に書類が散乱するに違いない。


……その頃には、こいつも今のような表情ではいられなくなっているんだろうな。


心の中で独りごちながら前を向くと、俺は溜まっていた仕事の一つを手に取り、PCへと向き直った。

 
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