エリート上司と偽りの恋
恋の始まりの終わり
九月に入っても営業は相変わらず忙しく、私も通常の業務に加え営業のサポートも積極的にするようにしていた。


「誰かこれ資料室に運んでくれるか?」

部長の声に、私は立ち上がって返事をした。

「はい、行きます」


部長から段ボールを受け取り、五階へ向かった。

というか、これ結構重いんだけど…。


ーーカチャ


「重いー、あっ、お疲れさまです」

資料室のドアを開けると、中には営業推進部の井上さんの姿があった。


「お疲れさま……」

今までちゃんと喋ったことないけど、近くで見るとすごく綺麗な顔してるな。


ズラリと並んだ棚に資料が詰め込まれているせいか、資料室は電気をつけても少し薄暗い。


段ボールを開け、中の資料を棚に整理しながらしまっていると、横にいる井上さんがジーっと私の方を見ている。


「あの……?」


「加藤さんて、篠宮主任となにかあるの?」


「え!?なにかって、なにもありません!」

突然のことに動揺した私は、少し強めに否定してしまった。


「ふーん。わざわざ営業事務のあなたを会議に呼ぶなんておかしいと思ったんだけど、違うのね」


井上さんの言葉に、私は思わずイラッとしてしまった。主任を馬鹿にされたように感じてしまったから。


「もしたとえなにかあったとしても、主任はプライベートを仕事に持ち込むようなことはしないと思います!」


好きだと言われたなんて口が裂けても言えないけど、それと今回のことは全く関係ない。主任はあくまでもデザインだけを見て会議に呼んでくれたんだから。


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