エリート上司と偽りの恋

その後水族館を出た私たちは施設内にあるレストランで食事をした後、車に乗り込んだ。

時計を見るのを忘れていたけど、いつの間にか二十時を回っていた。


「帰ろうか」

「はい」


暗くなった空の下、ふたりが好きな音楽を聞きながら車を走らせる。

たわいない話をしながら少しでも長くふたりでいたいと思うのに、帰り道は空いていて、少しだけ切なくなった。


眼鏡をかけて運転している篠宮さんの横顔を見ていると、どうして私なんだろうっていう疑問ばかりが浮かんでしまう。


亜子さんは『人がいつどんな人をどういうキッカケで好きになるのかなんて、分からないじゃん』そう言っていたけど、イベントで初めて会った次の日に好きだと言われたことが、未だに信じられなかった。


どうして……私なんだろう……。


車を走らせてから四十分後、私のマンションの手前で車を止めた。

ふたりで車を降り、手を繋ぎながらマンションの下で立ち止まる。


「覚えてないと思うけど、俺たち昔会ったことがあるんだ」

「え?」

「俺がまだ福岡にいたころ、二回加藤さんに会ってる」

「嘘……私、全然覚えてません」

「そりゃそうだよ、俺が君に一目惚れしただけだから。だからまさかまたこんな形で会えるなんて信じられなかったんだ。運命だと、思えたから」


だからあの日、私を好きだと言ってくれたの……?



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