エリート上司と偽りの恋
完璧な彼の本音~篠宮side ~

『あっ、加藤です、突然電話してしまってすいません。もし明日少しでも時間があれば、会ってもらえませんか……』


「明日じゃなきゃ、ダメかな?」


『あ、えっと、それはどういう……』


「今夜、会いたい」



電話越しの声だけでなんとなく分かってしまったが、彼女は困惑しているようだった。

でも、俺にはどうしても早く会いたい理由があったから。




二十一時五十分、待ち合わせ場所の駅前で、彼女が来るのを待っていた。

予定の時間よりも十分早いが、それでいい。


一緒に仕事をするようになってまだ数ヶ月だけど、彼女の仕事ぶりを見ていればなんとなく分かる。言われたことを効率よくキッチリこなす彼女は、きっと時間にもきっちりしているはず。

恐らく五分前に来るはずだから、待たせたくない俺はそれよりも早く待ち合わせ場所にきた。


チラッと駅腕時計を見ると、もうすぐ五分前。駅の中に視線を移すと、改札を通る彼女の姿が見えた。


「すいません、待たせてしまって」

「いや、全然」


読みが当たったことがうれしかった俺は、思わず少し笑顔になってしまった。そんな俺を彼女は不思議そうに見ている。


「話があるんだ」

そう言うと、うつむきながら「私もです」と呟いた彼女の表情を見て、思わず漏れそうになる言葉をグッと飲み込んだ。


「移動しようか」


駅から五分、一度だけ行ったことがあるバーに入ると、土曜の夜だからかカウンターは埋まっていて、唯一空いていた一番奥にあるふたり掛けのテーブル席に座った。

彼女は何か言いたそうに、手に持ったグラスをジッと見つめている。


「少し長くなるかもしれないけど、俺の話を聞いてもらえるかな」

「……はい」





< 62 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop