星月夜

 大塚悟。元の人生で付き合っていた人だ。今の人生では一切関わりがなかったのに、なぜ?

「あの、ここで藤崎月海さんのピアノ演奏が聴けるって聞いて来たんですけど、まだ開店前ですよね」

「もう開けますのでどうぞこちらへ」

 ちょうどそこへ雑務を終えた店長がやってきて、悟を席に案内した。

「彼女が演奏担当の藤崎月海です」

 店長に紹介され、私はおずおずと悟の方を向いた。

「初めまして。この度はわざわざ足をお運び下さりありがとうございます。藤崎月海です」

「会社の同僚からここのピアノがいいって聞いて。あ、私は大塚悟といいます」

 名刺を渡されたのでこっちのも渡した。知っている相手に初対面の挨拶をする妙な感覚にソワソワした。

 ふと視界に入った悟の左手薬指には指輪がはめられていた。結婚してるんだな。

 人生が変わったことで悟との接点は消えたと思っていたけど、こうして再会したということは彼とは何かしらの縁があるのかもしれない。恋とはまた別の。
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