エデン
エデンには他にもたくさんの樹があるんだよ。



どんな樹?



食べられる果実がたっぷり実をつける、豊かな果樹だ。



それって素敵。

だって、食べるものに困らないもん。



ああ、だから永遠にいられる楽園なんだよ。



そうか、だからエデンは永遠の楽園なんだ。

………この部屋も永遠にいられるかな。



いられるよ、僕たちがいようと思うなら。



そうだね、うん、そうだ。



頷きながら、私は頭の片隅で少しだけ不安になる。


本物のエデンの園と違って、このエデンには果樹がない。


リクの旅行鞄にぎゅうぎゅうに詰めこんできた食べ物は、もうそろそろ底をついてしまう。



いや、いい、そんなことはどうでも。

食べ物なんか無くたって、リクと一緒に、リクと二人きりで過ごせるのなら、私はちっとも困らない。


余計なことを考えて、二人きりの幸せな暮らしに影を落とすなんて、もったいない。



私は頭をよぎった考えを追い払って、リクに向き直った。



生命の樹と、果実の樹と。

他にはどんな樹があるの?



リクが微笑んで頷く。



エデンの中央には、生命の樹と、あとは知恵の樹が植えられているんだって。



知恵の樹。

私は途端に不機嫌になった。



なあに、それ。つまらない。

知恵だなんて。

そんなもの、人間には必要ない。



唇を尖らせて言うと、リクが頷いた。



そうだよ、知恵なんて要らない。

正しさを知る必要なんてない。

自分の望むことさえ分かっていれば、人は生きていけるんだ。



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