空の青はどこまでも蒼く
2
翌日、少し残る頭痛を抱えて、出社した。
社のエントランスホール、エレベーターの前、昨日見た背中がそこに立って居た。


今までにも、こんなことはあったんだろうか?
彼がエレベーターホールに立って居て、私がその後ろ姿を眺めていたことが。


ん?
山野君はいくつだ?
有希が、『山野君』と紹介するくらいだから、年下なんだろう。


彼が入社してから、今までにもこんな光景は何回かあったんだろう。
けど、昨日、声を掛けられるまで、気にも留めなかった。


よく考えれば、あれだけのイケメンだ。
エレベーターで一緒になれば、見忘れるはずがない。


なら、一緒になったことはないのか?


回らない頭で色々考えていたら、目の前に、山野君の背中があった。


「おはようございます、石田さん。」
「えっ、あ・・・おはよう、山野君。」


彼は、またも振り返らず、私に声を掛けた。


「昨日は飲み過ぎたんですか?美人が台無しだ。」
「えっ?何?また、急に・・・・」


彼の言葉に翻弄される。
昨日、会ったばかりの、昨日、初めて話しただけなのに、ずっと前から知ってたような振る舞い。


エレベーターが降りて来て、そこに居た全員が乗り込む。
私達を含めて、10人足らずというとこだろう。
周りを見れば、知らない面子ばかりだった。
そう言えば、毎日毎日、部に着くまで見知った顔に会ってなかったような気がする。


「石田さん、今日も呑みに行かれるんですか?」
「今日は行かないわよ、って、山野君、馴れ馴れしくない?」
「そうですか?ちゃんと敬語使ってますよ。」
「そういう問題じゃなくて・・・」
「今日、お友達と呑みに行かれないんなら、今晩、俺に付き合ってくださいよ。」
「は?え?どういうこと?」


ポーン


エレベーターは私の降りる階に止まった。


「ね!さぁ、降りてください。」


そう言って彼は私の背中を押し、エレベーターから降ろされた。


「ねぇ!!」


振り返り、閉まりかけたエレベーターのドアに向かって私は叫ぼうとしたが、ドアの向こう、作られた笑顔で手を振っている山野君に何も言えなかった。
否、言わなかった。


その張り付いた笑顔が私を惹きつけた。


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