永すぎた春に終止符を
拓海は、苦労してはめたホックをまた外した。

「ねえ、拓海、さっきもおんなじことしてたのよ。いい加減に夕食の支度したいんだけど」


「冷蔵庫に、ピザがある。今日はそれでいいさ」


「そんなのダメ…」


「後で食べさせてやるから。ほら、腕上げて…」

「嫌…」

「あのさあ、そうやって恥ずかしそうに隠される方が、余計にぐっと来るんですけど」

「そうなの?」

「そうそう。だから、横になって、ゆっくり腕上げて…
早くしないと、無理…やっぱり待ちきれない」


「ちょっと、ダメ。止めてったら」
彼は、私の腕に触れないように、器用にキスをする。


「いくらこうして満たされても、すぐにまた欲しくなる」

「ん…」

「愛してるよ、梨沙。こんなふうに欲しくなるのは君だけだ」



幸せになるのに、必要だと思ってたものは…

拓海に会う前はもっと具体的なものだと思ってた。



郊外に小さくてもいいから、自分の家を持つ。とか、

子供は何人欲しいとか。

たまには夫婦で、おしゃれをして街に出かけたいとか。

けど、拓海となら、そんなものどうでもいいと思うようになってた。
まず、どんな幸せも、どんな苦労も、拓海がいないと始まらないのだ。


「私ねえ、あなたじゃなかったら結婚なんか出来ないって分かったの。
誰とでも出来るもんじゃないって分かったの。だから、どんなことがあっても側にいるね」


「やっと分かってくれたか?」


「ん、私もびっくりするほど変ってたみたい。自分で気づかなかった」




【END】





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