空って、こんなに青かったんだ。
第八章
 おはなしはお正月明けの三学期が始まったばかりの頃にちょっと戻るんだけど、
わたしと優里亜ちゃんと真琴ちゃんはたまに、学校帰りとかに会うことが多くなってたの。

だいたい駅前の喫茶店とかファーストフードのお店とかでなんだけど。

そこで平山君の家のこととか久保田君の家庭のこととか、。イロイロね!

平山君の家ではお父さんのウワキモンダイでお父さんとお母さんの会話はまったくなくなってしまったらしい、って優里亜ちゃんが言ってたし久保田君の家ではまだお姉さんが帰ってきてないらしい、真琴ちゃんの話では。

だからなかなか野球に集中できない立場に置かれてるみたいなんだ、ふたりとも。

久保田君の家はまだ「イイみたい」だけど平山君の家はもうほとんど家族のカイワ?
が無いに等しいらしい。

だから平山君も家に帰るのがイヤ、みたいなんだ、いつも家の近所まで帰って、近くの公園で素振りして、それから家に帰るらしいよって優里亜ちゃんが心配そうに話してた。

家は「メシ食ってネルだけ」
って本人が言ってたトカ。

拓海はその気持ちがとってもよくわかるみたいだし、平山君も拓海とはとっても仲がいいのでよく泊まりに行くみたいなんだ、拓海の家に。

特に土曜日はよく泊まって、次の日いっしょに練習に行ってる、ふたりで。
そこに久保田君もチョコチョコごいっしょするみたいだけど。

だからわたしたちもなんとか男の子たちの力になりたいって思ってるんだ、「男の世界もツラいよね」って。

だって泣き言、言えないもんね、オトコは。

なので土日はお弁当を作ってあげたり練習を見守っててあげたりしてる。
そんなことしかできないのがときにかなしくなることもあるけれど。

もっともっといっしょにいたいけど、でも自分の、わたしたちの好きになったひとが目標を持って努力してるのって、やっぱりうれしいから。

それに今、学校全体で野球部に対する期待がどんどん高まってる。どこから情報がモレタ?
のか誰が言い出したかはもうワカラナイ?んだけどいつの間にか野球部が強くなってることは学校全体のキセイジジツ、になってる。

「甲子園も夢じゃない!」っていまはもうみんなが知っているみたい。

だから野球部の子たちもどんどんその気になってるみたいだし野球部の隠れファンも実はかなり増えてきてるみたいいなんだ。

だってわたしたち以外にもグラウンドに行くとかなりの人数の女子たちがソコラヘンを、ウロウロしてるんだから。

こんなことって英誠学園の歴史が始まって以来のことらしい、古くからいる先生の話
なんだけど野球部にファンが出来た、なんてね。

だからちょっとチガウ面でシンパイ
もあるんだけれど、でもそれはシンヨウシテあげないとね。

それに女の子に目が行ってる
ようじゃ、到底、甲子園なんてムリだよーってね!

だから今日もわたしたち三人はグラウンドでオウエン!    
              

                                       ※     


 三学期が始まって最初の土曜日に例のごとく何人かで啓太の家に集まったことがあった。
メンバーは啓太のほかに圭介、勇士、健大、星也、そして拓海の六人だった。

とくにナンていうことの用事や話すことがあったわけじゃないのだけれど、まあなんとなくこころにイチモツのある少年たちの集まりだったわけだ。

そんなことでもあって勇士はその日、自分が家庭の事情で英誠をやめなければならなくなるかも、とみんなに話したのだ。

「エッツ?」

「ホントかよ?」

「オマエガいなくなったらどうなんだよ?ヤキュウブ?」

当たり前のことだけどチームの中心的な存在の勇士の退部?となるとこれはもう甲子園どころの騒ぎではなくなるのだ、とてもじゃないけど。

ましてや勇士のポジションは野球の要の捕手、カントクだってそのポジションには勇士以外はカンガエテイナイ、マッタク。

「オレタチでバイトして何とか学費だけでも稼ぐか?」

啓太はさすがにキャプテンらしく妙案を出したけど実際、それじゃ練習にサシツカエル、
ムリだ、となった。

「そうかあ~やっぱむりか~」

圭介がため息をついてうな垂れた。

「オレタチの貯金、出し合うか?」
とため息ついでに圭介がいかにもグッドアイデアとでも言いたげに立ち上がったがそれも
「うちの授業料、オマエいくらかシッテンノかよ?」
と言う健大のひとことでたちまち、立ち消えとなった。

暢気な圭介はモチのロンのこと、知らなかったワケだけど、ほかのみんなは知っているのだ、英誠学園の学費がとっ~てもタカ~イんだ、ってこと。

啓太が素早く計算したら、みんなの貯金を全額出し合っても、勇士の授業料の一か月半ブンにしかならなかったのである。

それほどまでに英誠学園のゲッシャ、は高いのだ?

それともユウジノユウジンタチの手持ちが少なすぎるのか?それはわからないが・・・・

兎にも角にも、なんの解決策も見当たらないまま時間は過ぎて行く。

すると今度は健大の家の夫婦不仲問題に話題は移り、圭介の家の姉様行方不明事件へと走り、実はうちも夫婦の危機だと啓太はツブヤキ、星也も血の繋がらない家庭を嘆き、とうとうオマエハいいよな、優しいじいちゃんとばあちゃんに育ててもらって、しかもなんのナヤミモなく、と拓海にとばっちりのような羨望のマナザシガ寄せられた。

「ハッ???」

なんでソウナルノ?と拓海は起死回生の一発逆転をこころみたけどまったくあいてにされなかった。なぜか拓海がこの中ではいちばんの幸せ者に祭り上げられてしまったのだ。

「オレだってもともとは親のリコンで傷ついてここにやってきたのに・・・・」

といくらココロの中で叫んでみてもこの「不幸のカタマリ集団」の中では何の意味もなさなかったのだった。

そのうちに拓海はなぜか自分が本当に「このナカ」ではシアワセ、に思えてきたのだから
世の中は不思議だ。

いつの間にか拓海はみんなの慰め役になっていて、ダイジョウブ、とヘイキヘイキ、とナントカなる、をエーテルを飲み続ける小鳥の様に繰り返していたのだった。

いったいきょうのオレはナンなんだ?どうしてコウナルんだ?
なんど自分に訊き返しても拓海にはリカイが出来なかったのだった。

そうしているうちになんだかみんな眠くなっていつの間にか寝入ってしまい、気がつけば朝になってたようだった。

これも青春のいちページナノかもしれない。 

                 
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