小説家らしき存在
「ねぇ眠くなくなったでしょ?」
「はい!」
思わず言ってしまう。
「かなり目が覚めました!」
「こういうのいいでしょ?ダメでしょう?編集者が作家の横で眠ってちゃぁ...」
「すみません。でも、もう大丈夫です。今の話が面白かったから..」
「あぁ眼鏡返してもらっていいですかねぇ無いと全然見えないんですよ私。」
常居次人はいつもの口調に戻り、眼鏡を探している。
僕は椅子に置いてある眼鏡を取り、彼に渡した。
「しかし、君も役者だねぇ。」
「嫌いじゃないんですよ。こういうの。」
僕は高校の演劇部だったし、手で銃を撃つ真似をされれば、倒れるほうだった。
「いやいや、先生のほうこそ。」
「来る奴皆にやってるから、もう慣れているんだよ。」
しばらくして彼は尋ねる。
「でも、今の話が、本当だったとしたら、どう思いますか?」
「そうですねぇ。案外受け止めちゃうんじゃないかなぁ...」
「私を、いや、架空の人物、常居次人として一本小説を書く。」
「はい。小説家に憧れてこの業界に入った口ですから。あっ、すみません。本物の作家先生の前でこんなこと」
「いや、先生のような面白い小説なんて、僕に書ける訳無いですもんねぇ」
「いやいや、そんなこと無いですよ。誰にでも、一生にたった一本なら面白い物語を作ることは、出来るんだ。」
彼は続ける。
「いやいや、何本も書かなきゃいけないのが、プロなんだろうけどねぇ。」
「そんなもんですかねぇ...」
思いのほか先生の言葉に重みを感じる。
「そんなもんなんですよあぁそうだどうせなら実際に一本位書かれてみてはどうですか。」
「え!やめてくださいよぉ」
「小説家を目指してた口なんでしょう?私も、もう少し時間がかかりそうだ。することが無いと、また眠くなってきてしまいますよ?」
彼はそう言う。
「そうですかぁ?」
「そうですとも。書きあがったら私が見て差し上げましょう。」
「それはすごい!常居先生に診てもらえるなんて!よぉーし、頑張ってみちゃおうかな...」
よし、と僕はそこにあった原稿用紙を取り、小説を書き始める。
「ごゆっくりどうぞ。」
先生はそう言った。
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