リーダー・ウォーク

「そりゃそうだろうな。期待は期待でしか無いんだ。なんの意味もない。
本当に欲しかったらその女から努力でもして奪い取ればいい。
でもあんたはそれをしなかったんだろう?ならその程度の男だったんだ」
「かもしれないですね」
「なあ、その男はあんたに触れたか?」
「頭をよく撫でられました」

その確認をすると唐突に稟の頭をナデナデしてきた。
気にしない素振りをみせつつもやっぱり気にはなっている様子。

「で?そいつとまた会うとか?」
「会おうって言われたけど返事はしてないです。会う気はないしもうこのまま」
「会えば?」
「めんどくさいです」
「あんたはもう新しい生活してんだし、ここは腐れ縁を断ち切る意味でさ。
話をしてみたらあんがいすっきりするかもよ」
「……、良いんですか?」
「ああ。それであんたが吹っ切ってもう少し俺に優しくなってくれるなら」

田舎を出る時はもう二度と振り返るまいと思った苦い思い出。
だけどこうして今、松宮に言われてハッとした。
曖昧にしたまま逃げてきたようなものだから、ここで正式に終わらせよう。

彼の言うように今はもう別の恋を見つけている。
何時まで続くかはわからない、脆いものだけど。

「崇央さん。ありがとう。私、話をします」
「そうしろ」
「はい。じゃあ、連絡をします」

いったん席を立って机に放置されていた携帯を手にして大江に連絡。
相手も嬉しそうに了解してくれて時間と落ち合う場所を決めた。

「4時にカフェってなんだその中途半端」
「帰る電車の時間が6時らしくて」
「……まあいい。何とかする」
「え?」
「俺もそこに行く」
「え。え。え!?」

まって。この3人でお茶するのヘンじゃない?

いや、そうでもない?あれ?やっぱりヘン?混乱してきたぞ。

「大丈夫。適当な席で見てるだけだ」
「…みてるだけ」
「だってムカつくだろ。稟が他の男と2人きりとか」
「あ、あの。話してこいって言ったの崇央さんじゃ」
「だから話してすっきり終わらせてきたらいいよ。適当に見てるから」
「……」

やけに大人しいと思ったらやっぱり大人しくなかった。
でも隣りに座って睨まれるよりはいいだろうか。

「そいつがあんたに触ろうもんなら殴るかもしれないけど大丈夫だ」
「何を持ってして大丈夫だと?も、もう。崇央さん危ないことはしないでくださいね」
「あんたの期待を裏切るような男だろ。1発くらい殴ってもいいんじゃないか」
「だめです。だめ。…崇央さんはなにもしないで、見てて。
それからチワ丸ちゃんと3人でドライブでもしましょう?気晴らしに」
「そうだな。…さて。話も一区切りついた所で風呂にしよう」
「行ってらっしゃい」
「なあ。一緒に」
「行ってらっしゃい」
「稟」
「行ってらっしゃい」
「……チワ丸もつけるぞ」
「チワ丸ちゃんだけ頂きます」
「……」

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