リーダー・ウォーク

成り行きでチワ丸を預かることになった稟。
秘書だという男性が現れて見慣れたチワ丸のキャリーを持ってきた。
松宮が宴会というものを終えるのはおそらく夜中から深夜になるそうで。
それまで、チワ丸の世話をする。

「…うちの部屋、ペット禁止なんだよね」

本当はペット可がよかったけど。そうなると家賃が高い。
やすさで選んだワンルーム。
トリマーの給料は安い。新人になると生活がギリギリ。

迎えが来るまでの数時間なら大丈夫かな。
ちょうど2階で角部屋だし。
キャリーに閉じ込めておくのは可哀想と出してあげる。

「チワちゃん。ごめんね、君のお家にくらべたらしょぼい所だけど」

初めての場所に不安そうにキョロキョロするチワ丸。
たぶん、松宮を探しているのだろう。
でも稟を見つけてかけよってきて抱っこをせがむ。

抱きしめたらブルブルと震えて、たしかに欠伸をした。


「宜しかったのですか、崇央様」
「何が?」
「あの方にチワ丸をこんな遅い時間まで預けて」
「いいさ。犬の扱いは慣れてるんだし、あんだけ俺に意見しやがるんだから
当然きちんとチワ丸の世話もするだろうさ」
「崇央様に意見ですか?それはまた豪胆な女性ですね」
「どういう意味だ」
「いえ。…もう着きますので。私が引き取りに参ります」
「俺が行くからお前は待ってろ。つうか、何?ここ。プレハブじゃねえか?」
「それは流石に失礼では」

ほろ酔いではあるが意識はしっかりしている。車から降りてアパートへ入る。
秘書が持って行けと煩いのでお土産のお菓子も。
階段をあがり、聞いていた号室の前へ。インターフォンはやめて軽いノック。

「すみません。ちょっと寝ちゃってて」
「いや。いいよ。悪いのはコッチだ」
「チワちゃん、最初こそ欠伸してましたけど。今はお腹出して寝てます」
「そうか。やっぱりあんたには気を許してるんだろうな」

寝起きまるだしでドアを開けた稟。

「遊び疲れただけかも。…今つれてきますね」

キャリーに眠そうなチワ丸をいれて持ってくる。

「また、忙しい時は頼んでもいいか。時給出しても良いから」
「それは。その。…ここ、実はペットが禁止で」
「なんだよ。おんぼろプレハブの癖にペット禁止かよ。舐めてんな」
「お…おんぼろ」
「トリマーっていうのはよほど儲からない仕事らしいな」
「……私は新人なので余計に」
「まあ、いいわ。そこはこっちでどうにかする。だからまた頼むわ」
「え?ええ。わかりました」
< 16 / 164 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop