初恋ブレッド
らいばるパン
休んだ後って行きづらいなぁ。

私なんかが休んでも差し支えはないのだろうけれど、新入社員なのに休むなんて。
たるんでるとか言われそう……。
熱を出したのも、私の自己管理が悪いからだしね。

「……でも」

私は決めたのだ。

内気な自分を変えたくてここまで来たのに、うねうねして終わりたくない。
自分を磨いて素敵な女性に、仕事も私生活もしっかりした人になる。
そして自分に自信がついたら。

宮内部長に告白するって。

きっとフラれるかもしれない、だけどこの気持ちに後悔はしたくない。
頑張って、恋したい。


ゴミが二日分溜まるオフィスの掃除に勤しみながら、不意に下唇を噛んで思い出す。

あっ、取れてないかな?
慣れないから不安……。

今日は勇気を出して、以前諦めた淡いピンクのリップを塗ってみた。
薄く染まった口元で甘酸っぱいいちごが控えめに香る。
これが精一杯なんて笑っちゃう。
だけど、少しずつ……。

「おはよー」
「えっ!?あ、おはっ、ようございます」
「なんでそんな、驚いて……」
「かっ、考え事してたので。あのっ、部長のおかげですっかり良くなりました。ありがとうございました!」
「うん……」
「宮内部長?」

目線は合っているけれど、ボーッとしている。
具合が悪いのかと心配になり、じっと合わせていると「あ!」と声を上げた。

「これだ」
「……え?」
「なんか違うと思ったんだ」

部長は私の顎を掬い上げて、その手で唇を指差した。

「可愛い」

かっ、かわ……って!!
気づいてくれただけでも、嬉しいのに。
恥ずかしいよぅ。
真っ赤になって二、三歩よろけながら後ずさる。
部長はそんな私を見て笑った。

「あ。リクエストのメロンパン、です」

実は昨晩、元気になったことを伝えたくて……、嘘。
声が聞きたくて、ドギマギしながら電話した。
パンも作れるって言ったら、瞬時にメロンパンをもう一度食べたいというリクエスト。

「おーっ!あ、二種類……?チョコチップ入ってるのか」
「はい。あとはツナサンドです」
「このクオリティーならパン屋できるぞ」
「えぇ?そんな大袈裟です」
「あぁでも。ダメだな、困る」
「困る?」

「美琴を食べるのは俺だけ」

「……え」

なんという破壊力。
正しくは「美琴のパン」だよね?
だって子供みたいに夢中になって、目がキラキラしてる。
そんなに気に入ってくれているのは凄く嬉しいけれど。

『パン』が抜けてます、部長。
これポイント。
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