君の横顔

◆歩side


「大野せんぱ〜い、やっぱりここにいたんですね〜」

美術部の後輩(女子)に見つけられて、あわててスケッチブックのページをめくる。

「まーた野球の絵ですかぁ、よく飽きないですねぇ」
「運動してる肉体を描くのは、デッサン力つけるにはいいんだよ。高橋もやってみたら?」

バッティングフォームを描いた絵を見せながら言うと、高橋は肩をすくめた。

「でもわたし、動いてるもの書くなんて苦手だしぃ」

じゃ、なんで美術部入ったんだよ…と小一時間問い詰めたい気分。

ここは野球部専用グラウンド。校舎に隣接した一般用グラウンドからは、大きな道路一本隔てた所にある。

野球部グラウンドのフェンスの外に座って、スケッチするのが僕の日課だった。

いちおう美術部には属しているけれど、春休み明けに一つ、夏休み明けに一つ、文化祭用に一つ、何か作品を提出さえしていれば、毎日部室に顔を出さなくても顧問の先生は怒らない。

だから僕は、毎日、自分の好きなものだけをスケッチしていたんだ。

僕の好きなもの……いや、僕の好きな人は、野球部のエース、桜川友哉だ。

ずっとずっと、小学校低学年の頃から、僕は友哉が好きだった。
幼い頃からずっと体が弱くて運動が苦手だった僕は、いじめといわれるものはひととおり経験してきた。

そのなかでも辛かったのは、小学2年の頃、クラス委員だった奴が、先生の前では僕をいたわるふりをして優しくするのに、陰ではネチネチといじめてきたことだった。

すごく嫌だったけど、それを先生に言いつけることすらできない自分が、もっと嫌で、情けなくて……。

その日も、放課後、学校を出た瞬間から、そいつは僕のことを小突きはじめた。

「近寄んなよ、バイキン。のろまが移んだよ〜」

そいつが言うと、子分みたいに周りにいた連中も「バイキン、バイキン」とはやしたてた。
鼻の奥がツーンと痛くなって、涙がこぼれそうになった時。

「お前ら、なにバカなことやってんだ! そういうの『ひきょう』ってんだよっ!」

誰かの大声がして、はやしたててた奴らはシーンと静まり返った。

怒鳴っていたのは、隣のクラスってことは知ってるけど、全然しゃべったこともなかった桜川友哉だった。

「ひ、ひきょうって、どういうことだよ?」
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