女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~

2、多忙な恋人たち



 百貨店は12月の繁忙期を迎えた。

 各階セールやらクリスマスやら年末年始の贈り物やらで大賑わいだ。

 桑谷さんとシフトをあわせる必要から解放されたので、彼と顔をあわす機会はぐんと減ったけど、以前のように売り場から働いている姿を見てるだけで満足だった。

 たまには休憩室で一緒になったし、翌日が遅番のときなどは彼が私の部屋に来た。

 まだ斎の事件も完全に終わってないところに今度のストーカー事件で、最寄の警察署の人に私は顔を覚えられてしまったようだった。

 もう、悪いことが出来ないぜ。

 楠本からのしつこいメールには業を煮やして、私から一度電話をかけた。通話になった途端に私はいきなり噛み付いたのだ。

「こおら、楠本!!てめえ男のくせにしっつこいんだよ!!」

 すると向こうは暫く絶句したらしかったが、その後おずおずとか細い声が聞こえた時は本気でびっくりした。

『・・・・・あのお・・・・すみません・・・楠本はただ今席を外してまして・・・』

 えっ!!???と思って思わず電話番号を確かめる。

 ・・・楠本孝明、間違いない、あいつの電話よね・・・。え、じゃあ、この声は誰??

「・・・・ええーっと・・・大変失礼しました。本人だと思ったもので。失礼ですが、どちら様でしょうか」

 私もしどろもどろになって言った。すると小さな声で、相手が話す。

『瀬川と申します。すみません、いきなり携帯を渡されたので私も何がなんだか・・・』

 ――――――瀬川。・・・うん?何か記憶にあるぞ、その名前。と思って思い出した。


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