女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~
怒涛のようなクリスマスから年末だった。
札が舞い、ケーキが舞い、販売員が走り、商品は次々に品切れを起し、しかし幸運なことにクレームは一件もなく、無事に迎えた大晦日の夜だった。
私は夜の11時によろよろと自分の部屋に戻った。
今日までの年末の売り場から、明日からの新しい年の売り場へ替えなきゃならなかったのだ。そして福袋。大量の福袋を作って並べ、いつもの年末ならテレビを見て酒を飲んでる時間もまだ百貨店で働いていた。
・・・奴隷のようだったわ・・・。
もう紅白も終わりかけている。冷え切った部屋の暖房を全部入れて、とりあえずと部屋着に着替えた。
あー・・・もう、お風呂だけ入って寝ようかなあ・・・。去年はまだ派遣で事務をしていたから、1年後まさかこんなことになってるとは思いもしなかった。
・・・あと45分で、今年が終わってしまう。
ゆらりと立ち上がってお風呂の支度をしに行った。
今はまだ考えない。それよりも、明日は朝番で8時には出勤しなくちゃなんない。風邪ひかないようにしなくっちゃ。
ここ3日間、桑谷さんの姿は見えるけど、声をかわしてもなければ笑顔をみてすらいなかった。
うーん・・・これで今年が終わっちゃうのは何か、ちょっと寂しい感じがする・・・とか思いつつも、こっちが仕事終わっても百貨店の社員さんは12時までかかるかもと聞いていた。あの広大な百貨店の全てを新年のお正月バージョンに変えなきゃならないのだから。
それで先に帰ってきたのだ。
「・・・・仕方ない、よね」
呟いてお風呂へ向かう。明日、彼も出勤のはずだ。明日こそはまともに話せますように。
そんな祈りで、私の激動の一年は終わった。
何と言うか、本当にあらゆる意味で記憶に残る一年だった。
眠りに落ちる前に浮かんだのはあの人の姿だけ。実は、そんな自分を可愛く思ったりもしたのだが、それは誰にも内緒だ。