女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 ついほころぶ口元を押さえて玄関に走る。覗き穴から確認したら、背を向けて町を眺める楠本が見えた。

 ドアを開けるとパッと背の高い男が振り返る。

「――――――・・・よお。久しぶり」

 私の挨拶に、綺麗な歯並びを見せてあははと笑う。

「相変わらずな、男らしい挨拶だな」

 久しぶりに聞くハスキーな声は、以前より落ち着いていた。

 まだ中には通さないで、ドアにもたれてじっくりと、私は自分の男友達を眺め回す。

 彼はふざけて両手を広げ、その場で一回りしてみせた。

「俺変わったか?」

 切れ長の瞳、通った鼻筋、完璧な口元、均整の取れた体は仕立ての良い濃紺のスーツに包まれている。短い黒髪が秋の陽光を受けてきらめく。

 頭一つ分高い所にある楠本の顔を見上げて、私は微笑んだ。

「・・・驚いた」

「ん?」

「元々無駄に美形だったけど、色気がプラスされて更に格好良くなってる。・・・天は二物を与えないなんて嘘っぱちだわ」

 私の褒め言葉ににやりとして、それはありがとう、と答えてから苦笑して付け足した。

「無駄って何だよ」

「正直で失礼」

 私は笑いながら手を引っ張って、部屋に引き入れる。楠本はきょろきょろと暫く見回して言った。

「えらく古いとこに住んでるなあと思ってたけど、中は別世界だな。まりっぺの世界だ。壁、自分で塗ったのか?」

「そう。二日かけて一人で作った部屋」

「すげー」


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