女神は片目を瞑る~小川まり奮闘記②~


 郵便受けは桑谷さんが開ける。ストーカーからの手紙は私が不安になるからと見せてくれなかったけど、彼がお風呂に入ってる間に偶然見つけて読んだ。いや、訂正。正直にいうと、私は探し出したのだ。だって敵を知らずにどうやって攻撃に備えるの?

 ・・・・・不快だ。イライラさせてんのはあんただっつーの。てめえがそばに来たらぶちのめしてやるってーの。笑顔なんか、お前に見せるか、バーカ。

 もし目の前に来たら、ピンヒールで急所を踏みつけて4発以上は殴ってやる。私が鳥かごの中の鳥状態なのは全部このくそ野郎のせいだ。

「それ、握りつぶすのやめてくれ」

 いきなり後ろから声がして、飛び上がった。

 振り返ると、上半身裸でタオルを首からかけた桑谷さんが、居間の入口からこちらを見ていた。

 驚いてドキドキする胸を押さえて固まってたらやってきて、私の閉じた手の中から手紙を抜き出した。

「証拠だ」

 そして、引き出しにしまった。

「・・・・私、イライラしてるの」

 彼は冷蔵庫から水を出してラッパ飲みする。

 そして振り返り、頷いた。

「判ってる」

「何とかならないの?自分の時間が全くない。もう、キレて暴れだしそう」

 唸りたい気分だ。それか、食器を全部床に叩きつけるか。とりあえず、側にあったゴミ箱を蹴っ飛ばした。

  桑谷さんは黙ってしばらく見詰めた後、呟くように言った。

「・・・風呂でも入ってリラックスしてみたらどうだ?」

「やかましい」


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