それでも私は恋をする

ダブルデートする

「アリス! あの場所に行ったんだね。知ってたの?」
 果歩には情報がだだ漏れみたいだね。どっから聞いてくるの? 今さっき私が居た場所の情報まで。
「知ってたのって、知ってるよ。いくらなんでも」
 もう三年生だよ。あの場所を知らない方がおかしいでしょ? なんなら通り道だよ毎日の。通路なんだから。
「そっかー、そうだよね。健太郎が話したって言ってたら、もう今日あの場所にいるって聞いて。そっかー。よかった。よかった」
 なんだか話がよくわからないけど、果歩、近所の世話好きなおばちゃんみたいだよ。
 なんだか気になる話だけど、チャイムが鳴った後だからすぐに先生が来たんで話は終わった。

 *

 次の休み時間、果歩が吉田君に呼ばれてる。なんだか二人楽しそうに廊下で話をしてる。そして、時折私を見ている。きっと、私と拓海との事だな。なんだろう? 何の話をしているんだろう?

 果歩達は話が終わったみたいでチャイムの前に果歩が戻って来た。なんか、私に話がありそう。ちょっと楽しみ。
「アリス! 今度の日曜日空いてる?」
 ん? 日曜日?
「え? うん」
「じゃあ、さあ。安田君は健太郎が誘ってるんだけど、四人でダブルデートしない?」
 デート? あ、そっか付き合ってるし、同居なしなんだ……当然今度の休みが付き合ってはじめての休みになるんだ。
 きっとデートしそうにない、私を思って果歩が考えたんだろうな。あれ? 吉田君がか? とにかく吉田君もなんだか気を使ってくれてるな。きっと果歩に私の恋の話を今まで散々聞いてきたんだろうな。
「アリス? どうした? 予定あり?」
「あ、ううん。ない。ないよ。どこ行くか決まってるの?」
「暑いから水族館にしようって話してたんだけど、いい?」
「うん。水族館ね」
 ああ、どうしよう……拓海と果歩と一緒にいるなんて……バレないかな?……なにが? 同居? それとも本当は付き合ってないこと? 私の片思いだってこと?
「じゃあ、安田君の返事しだいだね。私は健太郎から聞くからアリスは安田君、本人から返事を聞いてね」
「あ、うん」
 拓海はどう返事するのかな?

 *

「じゃあ、アリス、安田君がOKなら、また集合の時間と場所を連絡するね」
「うん。じゃあ……またね」
 じゃあ、日曜日ねか、月曜日ねか。どっちとも言えなかった。拓海は断ったりはさすがにしないだろうけど、用事があることにしたりするのかな? それはそれで何だか悲しい。所詮学校での女子よけなんだもんな……私。学校以外で仲良くする必要はない。
「日曜日楽しみだな!」
 後ろからの突然の声をかけるの好きだね、拓海は。でも、今回はよかった、後ろからで。めちゃくちゃ喜んでるよ私きっと。心が踊ったんだから、その言葉で。日曜日という言葉と楽しみという言葉に。ダメだ。期待しちゃって、気持ちが吹っ飛んでしまうくらい。
「そうだね」
 まるで冷静な返しだけど、果歩じゃないけど音符ついてるんじゃない私の言葉に。
「何だよ! 楽しみじゃないのか?」
 私の前に拓海が回ってきた頃にはなんとか表情も持ち直せた。どうやら私の言葉には音符はついてなかったようだ。
「楽しみだよ。デートなんてはじめてだよ! どうしよう? 何したらいいの?」
 デートってことを楽しみなフリで乗り切ろう。果歩にも吉田君にも拓海にもみんなに不自然じゃない私でいられる。
「何って……さあ? 俺もはじめてだよ」
「嘘?」
 それは嘘でしょ? いきなり学校で付き合ってるフリのためにキスした人が?
「嘘言ってどうなるんだよ。本当!」
 確かに拓海が私に嘘を言う理由なんてない……けど、信じられない……でも、嬉しい。たとえフリでも拓海の初デートの相手が私なんだと思うと。はあ。完全に参ってるな私。このまま拓海がいなくなるまで持つんだろうか……うう、もう苦しいよ。
「アリス?」
「ああ、水族館ってどこか聞いた?」
「いや、近くだろ? そんなに遠くには行けないだろ?」
「だよね」
 ごまかすのがだんだん上手くなってる私がいる。

 *

 その後、家に帰りいつものように拓海と宿題をして過ごす。相変わらずいたずら好きは変わらない。ちっとも進まない勉強。だけど楽しい。
 拓海に晩ご飯を作ってもらってる時に、果歩から電話がきて場所と時間を教えてもらった。果歩すっごい楽しそうだな。ごめんね。こういうチャンスどんどん私が潰してたんだね。果歩……拓海と私が今一緒にいること知らないままでいて欲しい。このまま楽しい関係がずっと続けばいいのに……。
 その後すぐに拓海には吉田君からのメールが来た。吉田君さっきまで果歩と一緒にいたんだな、あの二人。
「あ! そうだ。今日からアリスと勉強してる事にしたからな」
 メールを見て、それを言った相手が吉田君だったんだろうな、思い出したように拓海が言う。
「うん。わかった」
 拓海は笑いながら料理に戻った。
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