部長っ!話を聞いてください!

唯一行動を起こしたと言えば……慰安旅行で部長を隠し撮りしたくらいである。

私は完全に“部長に好意を寄せる目立たない部下その○”みたいなポジションではあるけれど、こうやって部長と同じ空間で過ごせているだけで、時折言葉を交わせるだけで幸せなのだ。

私より十歳も年上で、何に関しても大人な部長。

告白しても、子供っぽい私など相手にしてもらえるはずもない。

わかっているからこそ、今のこの状態でじゅうぶん満足なのである。




部長ががたりと椅子から立ちあがった。


「吉田!」


こちらに向かって歩き出したことに気が付き、私は箸を持つ自分の手元へと慌てて視線を落とした。


「神崎部長! 今から出張行ってきます」


斜め後ろ辺りから、同期の吉田君の声が聞こえてきた。


「あぁ、ちょっと待って。先方に渡してもらいたいものが……」


どきりと鼓動が跳ねた。

ちょうど自分の後ろで部長が立ち止まったということが、声で分かったからだ。

部長の朗らかな笑い声に、胸が高鳴る。頬が熱くなる。箸を持つ手が震えてしまう。


「……そうだ。神崎部長、これプレゼントです」

「プレゼント? のど飴が?」

「はい。俺、明日こっちにいないので、一日早い誕生日プレゼントです」



“誕生日プレゼント”



< 5 / 74 >

この作品をシェア

pagetop