君をまとえたら
δ.for 京都
案の定連休初日

下りの新幹線は120%の乗車率だった。

俺たちは1泊の荷物をさらに小さくまとめたバッグを

それぞれ手にしてデッキに立つしかなかった。

「セナ。これあげる。」

俺はストラップを一つ手渡した。

「本物の木製ですか?」

ちょっと前に金沢へぶらりと行った時に

古びた小物屋で店の奥にちょこんと座っていたオヤジに

タダ同然で譲ってもらったものだ。

ストラップとは言えない旧いタイプのシロモノだ。

昔おばあちゃんがガマ口の財布にさげていたような小さなアクセで

極小の木製のひょうたんが7個ぶら下がっている。

なんて言うか

明治大正昭和の匂いがするって言ったら

セナは嫌がるだろうか。

「このレベルだと昭和初期のものになるでしょうか?」

「ビンゴだ。古すぎて嫌がるかと思ったんだ。」

「いいえ、とても貴重なものだと思います。頂いてもよろしいんですか?」

「全然。」

「ありがとうございます。」

これで俺の株は上がったんじゃないか?

「香取さん。泊まりはメールした通りの狭いユースです。たぶん外国人が半分共同で使っていてガヤガヤしているかもしれませんが。」

「全然大丈夫だから気にしないでいいよ。それより今度金沢へ行ってみないか?」

セナは確実に瞳をうるうるさせていた。

「金沢は私の憧れなんです。」

「そのストラップは金沢で見つけたんだ。」

「本当ですか?感激です。」

俺の株は完璧に上昇気流だ。

< 6 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop