学校の屋上
(6)~悲しい笑み~
 慧太はアリスを見た。

彼女と目があった。
ずっとこっちを見ていたようだった。
急に恥ずかしくなった。

「起きてたのかよ。」

 「あ……うん。」

 ……………

会話が続かない。

 慧太は聞きたいことがあったことに気がついた。

「熱はなかった。なんで急に倒れたんだ?」

 「あー………あの、私ね。」

彼女が話しだす。

 「お父さんはあんまり家にいなくて……お兄ちゃんも弟もいなくて……、今まで男の子と仲良くなる機会も無くて……。」

「うん?」

 「その……つまり………男の子に馴れてないってゆうか……苦手ってゆうか……。」

びっくりした。
男馴れしてそうな顔をしてる癖に……。
でも、そのギャップも慧太には可愛く見えた。

「なんか、ごめんな?」

嫌だっただろう。
出逢ったばかりの男に触れられて。

嫌われただろうか?
慧太は少し後悔した。
 彼女が口を開いた。

 「いや、本当にちょっとびっくりしただけだから。気にしないで。それに………」

「それに?」

 「……別に……嫌、じゃ、なかったし。」

そう言って彼女は顔をそらした。
慧太には、彼女の顔が少し赤らんでいるように見えた。



 うわぁ………
なんでこんなこと言っちゃったんだろ。

アリスは後悔していた。
あとあと恥ずかしくなった。

 ………そういえば!
アリスは聞きたいことを思い出した。

「さっきの曲聞いたことないよ?もしかして作ったの!?」

 「………うん。」

曲を描いているんだ……。
知らなかった。

「すごいっ!」

素直にそう思った。

 「………ただの趣味だよ。」

なんで?

なんでそんなに悲しそうに笑うんだろう。
彼には笑っててほしい。
 ギターをもっているときの彼はまるで別人みたいに輝いていた。
私の知らなかった彼をまた知ることができた。

なのになんでこんなにも悲しいんだろう。
アリスはもっとさっきの彼の曲を聴いていたかった。
そしてもっとさっきの彼を見ていたかった。
だから言った。

「もう一回……もう一回弾いて。」

彼はまた、悲しそうに笑った。
そして、こう言った。

「ごめん。今日は………もう帰って。」
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