イレカワリ~番外編~
口走る
病院から家までの道のりは、着た時よりもずっと遠く感じられた。


できれば沙耶と一緒にずっと病院にいたいと思う。


自分が病気になってもいいとさえ。


俺の自転車をこぐ足はとても重たかった。


来た時の荷物はなくて軽いはずなのに、ここねちゃんの顔を思い出すたびに体は鉛のように重たくなって行くのだ。


今家に帰るとまだここねちゃんがいるかもしれない。


そう思うと家に帰りたいとさえ思えなくなって、わざと遠回りをしていた。


普段通らない商店街の道を抜けて、寂しい裏路地を走らせる。


目的なんてなくて、ただ時間が経過するのを待ち、そしてようやく家に到着した。


普通に帰るよりも15分も遅く帰って来た。


それでも玄関を開ける時は緊張した。


ここねちゃんの靴が並んでいたらどうしようかと、ドアを開けるのを躊躇してしまう。


その時だった玄関が開いて歩が出て来た。


目の前にいた俺とぶつかりそうになって「うわっ!?」と、声をあげる。


「なんだ、帰ってたのか」


歩がホッと胸をなで下ろしてそう言った。


「あぁ……。どこか行くのか?」


「あぁ。今日のお礼を渡し忘れたんだ。今ならまだ間に合うから」
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