灰色の空
家族

あの人

一体何分間ここに立っていたのだろう
「はあ...」
今日何度目かのため息をつき、僕は空を見上げた。

車にガソリンを入れると言っていた父は、一向に戻ってくる様子がない。

もしかしたら、とっくにガソリンを入れ終えて、あの人と2人で行ってしまったのかもしれない。あの人達ならやりそうなことだ。少しでも期待した僕が馬鹿だった。

ふと、首に冷たい感触がした。
背後に人の気配がする。

「騒がないで。」

女の人の声がして、下をむこうとしてやっと、ナイフがあてられていることに気がついた。

女の人の手にはぎゅっと力が入っている。
言うことをきかないと危ないと本能的に察したのか体は女の人に忠実だった。
密着した姿勢のまま、道路沿いに留めてある黒い小さな車へと歩き、されるがままに、後部座席に座った。

車が動き出す。女の人が落ち着いているせいか、自分が置かれている状況が飲み込めないのか、不思議なくらい僕は冷静だった。

こんなことなら外出なんてしなければ良かったと思える余裕すらあったことに自分でも驚いた。

たった数時間前までは家で平和に宿題をしていたのに。さっき、あの明るい声に少しだけ期待した自分を恨む。
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