恋愛議事録
悩み多き同期

くだらないが真剣らしい

 「どうせさぁ、アンタだってそう思ってるんでしょ?!」
 手がベタつくと文句を言いながら、隣の女がチマチマと器用に箸を使って焼き鳥を串から外していくのをビールを飲みながら視界の端で確認した。
 
 頭一つ分の身長差は座ったところで大して変化はない。焼き鳥の解体に躍起になっている少し俯いた頬には長いまつ毛の陰が落ち、淡い色で彩られた小さな唇は思いだしムカつきのせいか
吸ってくださいとばかりに少し歪んで突き出されている。

 あー、マジで吸ってやろうかな。

 不埒な思いを嗅ぎ取ったのか、隣の女はキッと顔を上げた。
 「聞いてんの、光紀!!」
 「聞いてるっての、今日の本橋の話だろ?」
 本橋とは隣の女もとい、同期の大場由香里の3つ下の後輩で、要領のいい頭の良い奴だ。
頼んでおいた仕事が出来ていない事を、引き継ぎが無かったからだと課長他の前でシクシク泣いてみせたらしい。
既納先に挨拶回りに出ていた時で現場は見ていないが、相当な空気だったと聞いている。

 「何で結果私に回ってくるわけ?!仕事ひとつ満足に頼めやしない!!引き継いだって証拠を毎回レコーダーにでも残せってか!」
 本橋の要領の良さと頭の良さはいかに仕事を回りに押しつけるかで、場合によっては嘘も辞さない。
何でも今日は絶対に外せない合コンがあると給湯室で力説しているのを朝聞いている。
 回りの人間も本橋の人間性には早々に気が付いてきてはいる。

 気が付いてないのは課長と、この隣の女くらいだ。

 
 
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