イジワル同期とスイートライフ
一瞬、眠ってしまったらしい。

枕から頭をもたげると、久住くんがデスクでPCを叩いているのが見えた。

雰囲気からして、仕事だ。


今日はもとから、家で残務を片づける予定だったのかもしれない。

時計を見ると、まだ余裕で帰れる時刻。

邪魔したくない。



「シャワー借りていい?」



彼は振り向きもせず「ん」と返事をした。

築の浅いマンションなので、水回りもピカピカだ。

いいなあと観察しながらシャワーを浴び、浴室を出ようとしたら、目の前に久住くんが立っていたのでぎょっとした。

洗濯機の上に置いた私の服に目をやって、眉をひそめる。



「帰んの?」

「…うん」



全身から水を垂らしたまま、出るに出られず、小さくうなずく。

なんの準備もないし、もとから早朝には帰るつもりだった。

久住くんは、私の身体に視線を置きつつも、どこも見ていないような感じで黙り込むと、やがて棚からバスタオルを取って私に手渡した。



「送ってく」

「大丈夫だよ、まだ電車あるし、人歩いてるでしょ」

「言うこと聞けよ」



その声が、苛立っているように聞こえて、びくっとした。

それに気がついたんだろう、久住くんが困った顔をして、私の手からバスタオルを取り上げると、包むように身体にかけてくれる。

そのまま引き寄せて、ゆるく私を抱きしめた。

びしょ濡れの髪が、久住くんのスエットの色をどんどん変えていく。



「あの、濡れるよ」

「うん」



そう言いつつ、離してくれる気配もない。


あれ、おかしいな。

望んで抱いてもらったのに、結局、なにひとつ晴れた気配がない。

相も変わらず、不安だらけ。

わからないことだらけ。


久住くんが、なにを考えているのか。

なにを言いたいのか。

私は、結局どうしたらいいのか。


久住くんは、遠いまま。


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