イジワル同期とスイートライフ
私の左腕をぐいと上げさせて、見せてくれたジャケットの脇のあたりに、ゴルフボール大に広がった血の染みがあった。

うわ!



「救急箱って、このためか?」

「うん、でもそこじゃなくて、これ」



右手の指を見せる。

薬指の爪の際が切れて、いまだに血がじわじわ出ていた。

傷を見た久住くんの眉根が寄った。



「いつ切ったのかわからなくて。そういえば気がつくまでずっと腕組んでた」

「それでか」

「中まで染みてる?」



ちょうど脇腹の、背中側のあたりなので自分だと見えない。

久住くんがジャケットをめくり、カットソーを引っ張った。

一瞬、手が身体に触れて、ぎくっとした。



「ぎりぎり大丈夫だな」

「困ったな、替えのジャケット、ないや…」

「とりあえずこれ、脱いだほうがいいぜ」

「お疲れさまー、今何分押しかな、次の…」



突然ドアが開いて、永坂課長が入ってきた。

戸口のところで足を止め、硬直する私たちを見て、なぜかドアの外を確かめる。



「警備員さーん」

「ちょっ…ち、違」

「久住、お前、気持ちはわかるがそれだけはダメだ」

「俺が脱がせたわけじゃ、いや、俺が脱がせたんですけど」

「うん、話は六条さんから聞くから。それよりカナダのダイレクターが探してたぞ、すぐ行ってこい」

「違いますからね!」

「みんなそう言うらしいよ」



久住くんは言い返そうとしたものの、行かざるを得ず、悔しそうに顔を赤らめて出ていった。



「久住があんなうろたえるなんてなあ」



愉快そうに永坂さんがくつくつと喉を鳴らす。

私ははだけたジャケットを脱ごうか着ようか迷い、染みを気にして脱いだ。

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