イジワル同期とスイートライフ
確実になにかがおかしいと思ったのは、少し後だった。

偶然帰りが一緒になった日、子供みたいに久住のスーツの裾を掴んできた六条に唖然とする。

なにこれ。

なんでこいつ、こんな不安そうなの。



「泊まっていい…?」



いいよ。

いいけど。

それ言ったら、俺がどう受け取るか、もちろんわかってるよな?


どうしてかわからないけれど、六条は急に表情を曇らせて、逃げようとした。

とっさに捕まえた。


逃がすかよ。

言いたいことがあるなら言えよ。

相談ならいくらでも乗るし、なんだって聞くよ。

でもどうせ、言わないんだろ。


予想した通り、六条は頑なに口を割らず、なのにずっと泣いていた。

これには正直、困った。

こんなに悲しそうに泣く六条を初めて見たし、なのになにもしてやれない。


泣き疲れて眠る六条を、少しひとりにしてやろうと、ベッドを出た。

デスクで仕事をしているうち、ふと水音に気づき、振り返ったらベッドは空だった。



「…なんだよ」



自然と独り言がもれた。

なんだよ、帰るのか。

泊まっていいかって訊いたくせに。

今日は、一緒に眠れるのかと思ったのに。


シャワーから出てきた六条は、相変わらずなにか憂えているような顔で、でもやっぱりなにも言わない。

濡れた身体を抱き寄せて、無力感に襲われた。


なにを悩んでいるんだよ。

なんで話してくれないわけ。

うちに来たいとか言うくらいには、参っていたくせに。

話せるほどには信頼してくれていないのか。


前にも言ったけど、それはしっかりしてるって言わないからな。

本当にしっかりしているのなら、相手に心配なんか、させたりしないものだ。


冷たい髪が、頬を濡らす。


なあ六条。

俺ってお前のなに?


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